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安部公房を語ろう
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Re:飛躍して、権力や規範や制度や手続のこと
Icon In Reply to: 飛躍して、権力や規範や制度や手続のこと
アレン - 投稿日時:2004年01月03日 01時05分46秒
しんさん、こんにちは。
すごく面白い発言でした。
いつも通りの亀レスで失礼します。

多分、しんさんもわかっておられると思いますが、私も「棍棒をもった彼」は、文脈から考えて警官またはそれに類推するものと解釈しております。

さて、“社会的な手続”の話に参りましょう。

ーーー引用開始ーーー
蛇足ながら、安部公房という人は、“社会的な手続”というものに強い関心(この語用は適切でしょうか)を持っているようで、「壁」の法廷の記述、「耳の値段」の簡易交通傷害保険自動販売機や「砂の女」の最後の失踪宣告書面など、“手続”に関しては(登場人物の無名性に比して、そして、場合によってはストーリーの要求する以上に)ディテールに拘っている様子がとても興味深く思われます。
ーーー引用終了ーーー
鋭いですね。法廷・保険・失踪といったことを小説の小道具として使っているのは注目すべきことですね。さて、「耳の値段」の兄弟作とも言える「手段」においては、簡易交通傷害保険自動販売機の保険約款・第二章・第四条というものが、登場します。実際の約款のように、傷害箇所とそれに応じた保険金が淡々と書かれています。これなどは、ディテールを描いたものの例になるでしょう。
しかし、こうした“社会的な手続”を詳細に描くことは結局のところ、無名性にたどり着くのではないかと思います。こういった約款や失踪宣告書面などは、不特定多数(約款であれば加入者、法律であれば国民)を対象にしたものです。法治国家に住むということは大量の無味乾燥とした法律とそれに付随するこれまた大量の関連文書の中を生きるということに他なりません。法曹関係者など除く大多数の人々は普段生活する上でほとんど気にしませんが、いざ異常事態が起きると法律というのがにょっきりと顔を出す。しかし、法律が、国民全体を対象としている以上、無味乾燥としたものしかなり得ず、個々の事件の生々しさを殺す形で法定手続きは執り行われていきます。

ーーー引用開始ーーー
それは、規範や手続きといったもののもつ味気無さに見出した滑稽さではなかったかと。写真や演劇にも一つの軸を有する視覚的な人が感じた滑稽さの表れが、「砂の女」の最後に、文章としてではなく書式として提示される失踪宣告の事実だったのではないか、と
ーーー引用終了ーーー

『砂の女』の「1」で、すでに
ーーー引用開始ーーー
こうして、誰にも本当の理由がわからないまま、七年たち、民法第三十条によって、けっきょく死亡の認定をうけることになったのである。
ーーー引用終了ーーー
と文章として彼に対する法的手続きが既に執行されたことがわかります。(ちなみに、実際の民法第三十条も、失踪宣告に関するものであり七年もその成立条件です。「失踪に関する届出の催告」「審判」というのが、失踪に関する法的手続きの正しいものかどうかまでは私は知りません。)
冒頭で述べられたものと最後の二枚の文書とでは、同じ内容でも印象が全く違いますね。書式・書面のもつ味気なさというしんさんの指摘には肯くものがあります。それに加えて、視覚的インパクトと客観的な小説世界の事実としての失踪を演出している面もあると思います。
また、滑稽さというのは、法律・社会システムの本質を捉えた表現で面白いです。先に述べたように、これらのシステムは不特定多数を対象としている以上、個々の事件の内面にまではふみこまないし、それが目的のものでもない。安部が、作品中に公文書などを登場させるのは、法律・社会システムへの挑戦状なのかもしれませんね。

では、失礼。

http://www.geocities.co.jp/Bookend/2459/

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