第27巻

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紫色の波線

コメント

明日を開く文学 大江健三郎[対談]
アレン, 2002/02/28
 ジョージ・オーウェルの『1984年』の話から、国家権力や植民地問題の話に移っていく。植民地問題は終わった出来事のように思われるが、彼らが問題にしているのは、植民地支配された国の傷がいまだ癒えず、さらに産業資本による経済的支配をうけ、文化の面においても文学が生まれにくい状況にあるという点だ。
 そして、安部は、「今僕らが個人的に苦労しさえすれば小説を書ける立場にいるのはなぜかということを問いたい。」と問題提起し、さらに「国家に依存して小説を書いていること自身が"有罪"だとすれば、読者を勇気づけるなんて楽天的すぎるよ。」と言う。
大江「ではどういうことがあり得るんですか。有罪で、無罪になる可能性はないんですか。」
安部「ないかもしれない。ないからこそ書かざるをえない作家もいるでしょう。」
大江「僕は、ないはずはない、と言いたいわけです。」
 安部と大江の対談という素晴らしいキャスティングでありながら、残念なことに話は平行線のまま終わってしまっている。この問題は、言ってみれば作家としての原罪論争であり、非常に難しいものだと思う。しかし、我々が生きることによって、原罪の問題を持ち続けるように、作家もまた書くことによって、作家としての原罪の問題を持ち続けていくのだろうと思う。

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